「The FIVE」切り裂きジャックに殺害された女性たちの半生
先日、読んだ本。「The FIVE」
1888年、ロンドン。
貧民街で連続して起きた殺人事件のうち、
「切り裂きジャック」と呼ばれた殺人鬼が
直接手を下したと認定された5人の女性の
半生を追ったノンフィクションです。
私は本の中でもミステリーが好きです。
大掛かりな謎解きであれ、
社会問題を切り取った社会派ミステリーであれ、
スリルとサスペンスが味わえる
一種のファンタジーとして楽しんでいます。
「切り裂きジャック」事件も、
現代に生きる私には「虚構」の世界。
実際、小説に舞台に、
切り裂きジャックを題材にした作品を
多く目にしていますし、読んでいます。
迷宮入りした事件なので、
アレンジは作り手次第ですが、
フィクションとして親しんだ作品で
被害者となった女性たちは例外なく
「街娼」「娼婦」でした。
その職業が殺害の動機であるという作品も。
が、この本に出てくる実在した女性たちの
共通点は「職業」ではなく、
それぞれの事情から自分1人で生きており
その日の宿賃にもこと欠く困窮状態で
劣悪な環境の「救貧院」に頼るか
路上で生活するか、という状態にあった
ということだった、と。
当時の英国はヴィクトリア女王の治世。
国の「顔」に女性を立てながら、
女性の地位は著しく低く
男性の庇護なしには
真っ当な暮らしができない状況にあったようです。
結婚生活が破綻したり、
法的な婚姻関係が築けなかった女性は
社会的に認められず、
そもそも女性1人が食べていかれるだけの
収入を得られる職業がありません。
学問も収入を得る職業もすべて男性のもの。
そういった時代に、
家庭から切り離され、
1人で放り出された女性は
「自堕落で不適格」な存在とひとくくりにされ
体を売らなければ生きていかれないだろうし
そういったことも抵抗なくできる女性だろう
と短絡的に捉えられた結果、
「被害者は娼婦」と広まってしまったと。
当時ほどではありませんが、
今でも日本など男性優位の社会です。
生涯にわたって女性が1人で生きていくのは
男性1人で生きるより経済的にずっと厳しい。
現代にも通じる問題を提示しながら、
犯人にスポットライトを当てるのではなく
被害女性たちにライトを当て
彼女たちの尊厳の回復と、
ひいては女性全体の地位の向上を訴えています。
切り裂きジャック。
ジャック・ザ・リッパー。
虚構の物語ではなく、
実在した5人の(もしかしたらもっと)女性が
実際に命を奪われたのだと
改めて考えさせられた力作でした。
横浜の薔薇。
被害女性たちのご冥福を
遠い異国から時空を超えて祈ります。
ここまでお付き合いくださった方、いつも来てくださる方もありがとうございましたm(_ _)m
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